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【東京都写真美術館】「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」で考える。そこにあるモノに向ける目線

東京都写真美術館で開催されている「ルイジ・ギッリ 終わらない風景」。イタリアのレッジョ・エミリア県スカンディアーノで生まれたギッリは、測量技師としてキャリアを積んだのち、コンセプチュアル・アーティストたちとの出会いをきっかけに写真家としての活動を始めました。写真を現実世界の複製ではなく、フレーミングされた「見られた」視覚的断片によって風景を作り出すための手段として捉え、主にカラー写真による実験的な写真表現を行ってきました。国内外の<物柄>と<手仕事>を見つけ出すとき、ギッリのまなざしは私たちに示唆を与えてくれます。

父パヴェージオ・ギッリが出張のたびに持ち帰った絵葉書や本、都市の写真、そして画家でもある叔父ワルターとの時間は、「色でイメージを作り出す」という行為をギッリ青年にもたらしていました。これはギッリの写真家としての活動において、一貫したテーマとなっていきます。ギッリは31歳まで測量技師として働き、その後はグラフィックデザイナーとして活動。1969年、当時まだ無名だった画家フランコ・グエルゾーニとの出会いから、モデナ地域を拠点とするコンセプチュアル・アーティストたちのコミュニティに加わったことをきっかけに、写真の制作をスタートさせたのです。

49歳でこの世を去ったギッリですが、写真家として活動したわずか20年ほどの期間に、多角的な思索をいくつも残しています。ギッリが日本でその名を知らしめた著書「写真講義」の帯では、映画「ベルリン・天使の詩」の監督ヴィム・ヴェンダースに「最後の、真のイメージ開拓者だった」と言わしめました。

〈私の机の前には、ルイジ・ギッリの写真が掛かっている。私は彼の写真が好きだ。そして写真と同じくらい、彼が書くものに心動かされる。ルイジ・ギッリは最後の、真のイメージの開拓者だった。そして間違いなく、20世紀写真の巨匠のひとりだ。〉
——ヴィム・ヴェンダース

無意識に視界の中の焦点を選び、固定化してきたことを思い出す

当メディアの主題は<物柄>及び<手仕事>であり、<物柄>や<手仕事>を内包するモノとの出会いを促すことでもあります。誰しも自分の関心事にまつわる情報のみが目の前を流れ選ばれる毎日の中、視界に映るオブジェクトには強弱の差があるでしょう。

そんな中で、ギッリの常に複数の要素(例えば絵葉書のラック、壁紙に描かれた樹木と実際の木、オレンジ色の壁に掛けられた鏡に映る青い海と空)を等価に捉え、1枚の写真の中でそれらのイメージを反響させ合う視線は、私たちの近視眼的日々に風穴を開けるように感じます。ギッリの〈初期作品〉や代表的なシリーズの1つ〈コダクローム〉では、三次元の被写体を二次元に移行させる際、写るものに強弱の差を生み出しません。

続く〈F11、1/125、自然光〉シリーズでは、風景を通じたイメージへの思索がさらに広がります。

〈F11、1/125、自然光〉のタイトルが示すのは、絞り値、シャッタースピード、光の種類で、風景写真の撮影において比較的一般的な設定です。このシリーズでは、打って変わって街中の人々が映し出されます。そしてこの人々は、街の風景の一部分であったり、展示物を眺める後ろ姿であったり、ここでも“中心”のようには撮られてはいません。撮影者自身が風景と一体となり、呼吸をする人々の一部であるように感じられます。「見られる」ものとそれを「見る」人々、そしてその人々の背後で呼吸をし、自然とシャッターを切るギッリ。この一連の視線の連鎖は、これまで私たち自身が視線を向けてこなかった対象に向かう人々を通して、対象自体の存在と、そこに注目する人々の存在に気づかされるような光景でもありました。

ギッリの写真との対面は、「どこかで見たことがある」という既視感と、「決して見たことがない」という未知の感覚、夢で見たことがあるかもしれないような揺らぎを突きつけられることです。作品に漂う無音さ、静けさ、そこに写る光や空間にどうしてか懐かしさを覚え、その正体を思い出そうとせずにはいられなくなる。ギッリの作品は、私たちの見るという行為、すなわち見るものを選ぶという行為でできた心の隙間を通り抜ける風のように思うのです。

Information

総合開館30周年記念 ルイジ・ギッリ 終わらない風景
会期:2025年7月3日~9月28日
会場:東京都写真美術館 2階展示室
所在地:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話番号:03-3280-0099
開館時間:10時~18時 木・金:20時まで
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は開館、翌平日は休館)
料金:一般800円、学生640円、高校生・65歳以上400円、中学生以下無料
担当者:学芸員 山田裕理

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